近年、テクノロジーの急速な発展により法人のBtoBマーケティングや営業手法の選択肢が増えています。むかしは、お客様第一優先に考え「お客様は神様」であり、お客様から選ばれるためにどうするか?という考えでしたが、現代では潜在顧客や顕在顧客を選別し、アカウント(企業別)でアプローチする、という発想での施策も出てきました。ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)の登場です。
本記事では、マーケターなら知っておきたいABMについての基本的な考え方や歴史、導入メリット、導入ステップなどをはじめての方にもわかりやすく解説していきます。
目次
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?
ABMとは、Account Based Marketing(アカウント・ベースド・マーケティング)の略称で、BtoB企業において「自社にとって価値の高い顧客企業(アカウント)を選別し、顧客に合わせた最適なアプローチをする」マーケティング手法のことです。
このABMは概念として特に目新しいものではありませんが、実際に取り組むとなると、アカウント企業の選別作業や、その後の1社1社に合わせた施策検討や準備に工数がかかりすぎるため、以前はうまく運用できている企業はごく少数でした。
しかし近年、テクノロジーの発展により、マーケティング活動を支援するMA(マーケティングオートメーション)ツールや営業活動支援するSFA(Sales Force Automation)ツール、顧客管理が容易になるCRM(Customer Relationship Management)ツールなどを活用することにより、企業別のアプローチ施策や管理ができるようになりました。
さらに蓄積したデータをもとに一度購入したユーザーに、顧客体験価値を向上させる施策なども打てるツールが急速に普及し、より細やかなABMができるようになってきました。
ABMと従来型のマーケティング手法との違いとは?
一般的に過去のマーケティング戦略では、リード数をKPIに定めとにかくリード数を集めて、それから商談化し、受注を獲得するという「リード・ベースド・マーケティング」の手法が主流でした。
一方でABMでは、より潜在顧客の解像度を高くすることにより、成約確度が高いターゲット企業を可視化し、顧客目線でのアプローチ施策を描きます。また、ターゲットアカウントの情報をデータベースに蓄積し、明確に可視化することで、施策効果の検証やターゲットそのものの検証サイクルを回すことができます。
一般的には、「ポテンシャル」と「ステータス」という2軸で潜在顧客・顕在顧客情報(リード)をセグメント化し、それぞれに合わせたアプローチ企画・実行していきます。
ABMが必要とされる理由とは?
日本国内では営業主体の「あしで稼ぐ」アプローチからMAツールなどのテクノロジーを活用する、より効率的な施策へのシフトチェンジが多くの企業で起こりました。見込客の行動をトラッキングし、データを収集・蓄積、最適なタイミングでのコミュニケーションを自動化します。MAツールとABMの相性がとても良くさまざまな企業でテクノロジーを活用したABMが受け入れられています。
また、ターゲットアカウントが将来に渡りどの程度の利益を生むかという指標、LTV(Life Time Value)は、顧客と一度切りの取引で終わるのではなく、良好な関係を維持しながらアップセルやクロスセルなど何度も取引を重ねるなかで収益の総額を高める考え方が重要とされています。
そのため、ターゲットアカウントのデータをCRMに蓄積し、LTVを高めるために顧客の業種や規模といった条件で自社が理想とする顧客像を明確にし、集客の段階でそれに合致するリードへ積極的にアプローチして商談化するのが効率的だと言えるでしょう。
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ABMに向けた部門連携に必要なこととは?
ABMのためのインサイドセールス連携
インサイドセールスとは、電話、メール、ビデオ会議システム等を用いて潜在顧客や顕在顧客とのコミュニケーションを行う役割を担い、主には商談機会の創出、提案・成約行為をおこないます。日本国内ではThe Modelの考え方と手法が福田康隆氏の著書『THE MODEL』で世間により広まりインサイドセールスにも注目が集まりました。
具体的にThe Modelとは、顧客の獲得やサポートといった営業活動の一連の流れを細分化し、ビジネスにおいてより高い成果を生み出すための仕組みのことをさします。もともとは、世界的に有名なCRMソフトウェアを提供しているセールスフォース・ドットコムで、活用されており近年インサイドセールス組織の立ち上げや一部外部委託による組織の設置をする企業が増えてきました。
このような背景からインサイドセールスの活用が有効とされ、ABMと連携することによりさらに高度な管理とアプローチができるようになりました。
ABMの手順の第一歩では、ポテンシャルとステータスの条件設定を行い、ここに見込客を振り分けていきます。ただ、見込客の情報が不足していれば正確なターゲティング分は難しくなります。
そこで重要となるのが、インサイドセールスです。
インサイドセールスは、はじめに顧客接点を持つ所謂、顧客へのファーストタッチの場面をもつ重要な役割を担っています。インサイドセールス部隊がさまざまな接点からアプローチし、情報収集・ヒアリングすることでアカウント企業の解像度を上げターゲットの現在の状況や求めているものを明確にすることができます。
さらに他にも有用な情報などを得ることにより案件化するための鍵を手に入れることもあります。たとえば、予算額や最終的な意思決定者、購入が予想される時期などをヒアリングできた案件は、商談フェーズまで進められる可能性も比較的高くなるでしょう。
ABMに向けた営業との連携について
ABMを進めるにあたり最も重要な指標のひとつとなるのが、営業現場の温度感の把握です。どれだけデータの蓄積をし、アプローチしていても営業フロントで効果的だと感じていなければ施策を打っている意味がありません。
- アカウントのポテンシャル指標とステータス指標が営業現場で活用できるものになっているのか。
- ABMでのアプローチ施策にどのような方法が考えられるのか。
- ABMを実施する際にどのようなコンテンツが必要になるのか。
- 一定の期間を区切ってABMを実施した結果、どのような定量的な効果、定性的な効果が出たのか。
などを事前に現場営業と共有することにより、組織全体で一体感を持って進めていくことが非常に重要となります。くれぐれもABMのチーム内に情報を閉ざしてプロジェクトを進めないように注意しましょう。ABMの成功の鍵は組織横断の情報連携です。
ABMによるカスタマーサクセスと顧客のファン化
ABMとカスタマーサクセスはとても相性がよく、「既存顧客→優良顧客→ファン化」するにはもってこいの手法になります。ABMはそもそも顧客のポテンシャルとステータスを明確に定義し、アカウントごとにアプローチを変えるという手法です。
一方で、カスタマーサクセスは顧客ごとの成功を定義し、導入から成功に向かうためのオンボーディング、ユーザー活用のアクティブ数や時間、特定機能の利用率、NPSスコアなどをみてアカウント企業の成功に向けて支援します。また、追加で必要な機能などをユーザーが欲していた場合、アップセルやクロスセルの提案をし、さらに自社製品・サービスの優良顧客化、強いてはファン化することで自社製品を広めてもらう、という施策もABMを活用することで可能となります。
各アカウントで成功に向けた定義づけをし、アプローチするという観点ではAMBもカスタマーサクセスの活動も似た手法となるため、とても親和性が高いのです。
ABMのメリットとデメリットとは
ABMを導入し効率的にアプローチする手法は多くのメリットをもたらします。しかし、どのような画期的な施策やツールを活用した施策もデメリットはつきものです。ABMにはどのようなメリットがあり、デメリットがあるのかを事前に把握、想定しておくことで、後々問題が発生しても想定の範囲内として対応できるように準備しておきましょう。
ABMのメリットについて
ABMのメリットはさまざまあります。実施にわたしがABMを実施して感じた3つのメリットは以下の3点だと感じました。
- 高いLTVが見込める企業の絞り込み&リソース集中が可能
- 1 on 1マーケティングによる個別の最適化施策が可能
- データ蓄積による中長期的な施策が可能
多くの企業で人手不足が叫ばれる中、高いLTVが見込めるアカウント企業に対してピンポイントでアプローチできるのはとても魅力的です。実際にどれだけ時間をかけても案件化につながらない企業や、そもそも要件として対応できない要望を言われてもユーザーが満足できないのであれば提案しても導入は難しいでしょう。そのため、ファン化や優良顧客化になる見込みのあるアカウント企業に集中してアプローチできると効率的です。
また、中長期的な付き合いとなる企業であれば1 on 1マーケティングによる個別の最適化する価値が十分にあるでしょう。ABMでターゲットを絞り個別アプローチすることで導入促進に繋がります。さらにデータ設計をし、個別データを蓄積することで、カスタマーサクセスでのデータ活用も可能となります。
ABMのデメリットについて
多くのメリットがあるように感じるABMですが、どのようなデメリットがあるのでしょうか。私は主に以下の3点がデメリットだと感じています。
- エンタープライズ企業向き施策の傾向
- 本格的な運用までに時間がかかる
- 組織体制の構築・運用の懸念
ABMはアカウントを絞りアカウント企業として価値があると見込んだ企業に対して集中的にアプローチを仕掛ける施策に向いている一方で、層の厚い小規模の中小企業や大衆化に向けたアプローチ施策としては不向きな傾向にあります。
また、ABMを導入する際には事前の情報整理や導入後の定期的なチューニングなどを考慮すると本格的な運用までに多くの時間を費やすことが比較的多いため、なかなか結果が出ないという歯痒い思いをする可能性もあるでしょう。さらには組織体制や各人の行動もある程度ルール化する必要があるため、優秀なプレイヤーや個人で目立った活躍をする営業マンにとっては動きづらくなるかもしれません。
個々の営業マンが、現時点でたくさん受注できているセグメントや個人的に良いと思っている個人的視点ではなく、企業として価値があるという俯瞰的視点で一斉に管理されるようになるため、プレイヤーとして価値を見出すことができない人も出てくる可能性もあることを把握しておきましょう。
最初のうちは、マーケターがホットリードとしてパスしたセグメントよりも「自分はこっちの方がアツイ」と別のリードを追ってしまったり、目先の自分のインセンティブのために今受注できているところしかアプローチしなかったりと、ABMの施策に従ってくれない人も出てくると思います。
ABMはひとりの優秀なプレイヤーよりも全体的な総力で最大限の効果を出すことが目的なのです。
ABMツール、MAツール、SFAツール、CRMツールの違いについて
近年マーケティング活動から営業活動、既存顧客の支援活動まで細分化され、さまざまな自動化ツールやLTV最大化に向けた支援ツールが存在しています。特にABMツールやMAツール、SFAツール、CRMツールの違いが何かについてイマイチピンときていない方も多いと思いますので、それぞれの特徴について紹介していきましょう。
ABM(Account Based Marketing)ツールとは
MAとは、Marketing Automationの略で、マーケティング活動を自動化するためのツールのことをMAツールと呼び、収益向上を目的とした顧客育成(ナーチャリング)に使われます。MAを導入することによって、見込み顧客のデータ管理から一人ひとりの興味関心を考慮したコミュニケーションが可能となり、各顧客の行動スコアに対してのアプローチが可能となります。
関連記事:MA(マーケティングオートメーション)とは?MA導入経験者が語るMA導入に必要な8ステップを徹底解説!
SFA(Sales Force Automation)ツールとは
SFAとは、Sales Force Automationの略で、営業支援システムと訳されます。このSFAは営業を支援するために、営業が商談を開始してから受注に至るまでの進捗状況を可視化し、活動の管理をします。従来営業の業務は多岐にわたりますが、顧客リスト作成や毎月の見積もり作成、レポーティング分析などの定型業務は自動化が可能です。それらの定型業務を自動化することにより、営業担は有望な見込み顧客へのアプローチといった本来注力すべき活動に集中できるようになります。
CRM(Customer Relationship Management)ツールとは
CRMとはCustomer Relationship Managementの略で、顧客関係管理と訳されます。 その名の通り顧客を職位や部署、年、齢性別などの個人情報や購入歴、資料ダウンロード履歴、問い合わせ履歴などから顧客をセグメントします。それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで、顧客満足度の向上や、長期的に顧客との良好な関係性を維持することを目的としたシステムです。 ひとりあたりの生涯購買額(LTV=ライフタイムバリュー)を最大化し、顧客維持率(リピート率)を上げることで、中長期的な収益の向上を目指します。
ABM導入の3つのステップとは
ABMを導入するにあたりどのようなことが必要となるのでしょうか。今回は実際にABM導入、利活用した経験をもとにどのようにABMの導入を進めるべきかご紹介いたします。
01. 自社アカウント情報整理
はじめにABM導入をする際は自社の顧客データを今一度整理する必要があります。企業名の名寄せや企業規模のセグメント割振り、上場・未上々の情報、その他の企業に紐づく役職者情報など、これらのデータをどう整理しデータ構築していくかを明確に設計します。
もし、これらがおこなわれていない場合、
- 古い情報や間違った情報でアプローチしてしまう
- データ項目が整理されておらず、後々の施策に全く使えない
- 取得していたと思っていたデータが蓄積されていない
などという状況になりかねません。必ずABMを進めるにあたりどのような情報が必要で、どこで取得しどのように管理・更新するのかを設計しましょう。
02. ユーザー数と利用権限の設定
次に組織の中で誰が何のためにABMツールを利用するのかを明確にします。ABMを利用するのはマーケティングの部署だけでしょうか?それとも、マーケティング部以外の営業部やインサイドセールス部でも使うのか?
ABMツールを利用する際に、適切にユーザーに割り当てられておらず、さらには権限設定をしていなければABMツールを組織で活用することができません。
誰が何の目的で必要になるのかを各部署と連携して、アカウント数や権限設定を進めていきましょう。
03. ポテンシャルとステータスの評価軸の設定
既存顧客との取引履歴など過去のデータと照らし合わせて自社が理想とする顧客像の条件を最上ランクとして定めます。その後、条件をゆるめ各ランクの条件設定を行い、ポテンシャルを定めます。また、これまでに蓄積したマーケティングおよび営業ノウハウから、潜在顧客から顧客化までのステータスをセグメントし、条件設定をおこなうと良いでしょう。ステータスごとの条件設定は、各社のマーケティング戦略により違うので自社にあった条件設定を進めていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ABMを進めるには会社の組織全体で効率的かつ効果的に売り上げを伸ばすための施策として認識し、組織一丸となって動く必要があります。また、組織一丸となって進める場合に外部の経験者などの支援も必要になってくる場合もあります。NulBirthでは多数のクライアントのマーケティング支援をしております。法人マーケティングに課題をお持ちの方はぜひお気軽にご連絡ください。